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チームラボ & TikTok, チームラボリコネクト
アートとサウナ 六本木
工藤 岳さん インタビュー
「チームラボ & TikTok, チームラボリコネクト:アートとサウナ 六本木」は2021年3月22日(月) に東京・六本木にオープンしました。
半年間限定で開催中の、本展の背景やみどころについて、工藤 岳(くどう たかし)さん(チームラボ コミュニケーションディレクター)にお話を伺いました。
◆サウナとアートという実験
― 今回のチームラボの展覧会場は、六本木ヒルズのすぐ隣ですね。
本展は常設展にしたかったのですが仮設展となり、物理的にもさまざまな制約がありました。それでも、本格的な実験の仕組みを作りたかったんです。
“チームラボボーダレス”(お台場)では来場者が進む方向性に「迷う」ような空間づくり、” チームラボプラネッツ”(豊洲)では水や光を使った圧倒的な質感により、”没入感” を生み出しました。
今回は、サウナによって「来場者自身の状態を変化させた上でアートを鑑賞する」という全く新しいアプローチなのですが、やはり「没入感」を創出したい。そのための本格的な実験展示にしたいという思いがありました。
本展に向けてチームラボが実験を始めたのは3年ほど前、もちろん新型コロナの前の話です。
コロナ禍となって不確実な要素も出てきましたが、一つずつ対処して、開館しました。
例えばサウナは定員24人のところを12人に減らしたり、入場の際、予約チケットのチェックから検温まですべて非接触型にしたり、館内で使えるマスクを用意したり、といったことです。
当初、オープンは今年3月19日の予定でした。しかし、首都圏の緊急事態宣言が延長されたことにより3月22日にずれこみ、全体の会期が少々短縮されてしまいました。
また現在、平日は12時に開館しているのですが、状況を見極めながら、可能であれば、朝から開館したい。そうすれば、皆さんに、朝から「ととのう」を楽しんでもらえるのではないか、と思っています。
◆ ”サウナ” という前提
― なぜ、チームラボで今、あえて ”サウナ” なのですか?
新豊洲にあるチームラボプラネッツでは、素足になって作品空間に入ることで、自分と作品との関係性ががらりと変わります。より身体的に、作品に没入することができると思います。
しかし、一般的には、例えば、美術館で裸になって鑑賞するということは、美術館にとっても、来場者にとってもハードルが高くなるでしょう。
本展では “サウナ” ということで、水の中にも、そのまま入ることができる館内着(水着でも可)を着ていることで、鑑賞者は、より身体的に、自分と作品との一体感を感じることができます。
サウナという「前提」があるので、ハードルが下がると思います。
◆ととのって、アートを体験する
―「ととのう」とは、どういうことですか?
サウナと冷水浴を繰り返すと、なんとも言えない快感とともに頭がすっきりと冴えた感覚が得られます。
「ととのう」とはサウナ、冷水浴、休憩のプロセスのうち、冷水浴直後の休憩の時に感じられる心地よい、通常とは異なる感覚のことを指します。
2008年頃、サウナ愛好家達による情報発信・交換がSNS上で始まり、2009年にマンガ家タナカカツキ氏の『サ道』と題したエッセイの連載が開始、サウナ・冷水・休憩を繰り返すことによってもたらされる特殊な状態「ととのう」ためのプロセスや方法論が、マンガによって可視化され始めました(2011年にエッセイ版『サ道』が出版。この頃は、「ととのう」ではなく、「サウナトランス」という言葉が採用されています)。
サウナ愛好家の濡れ頭巾ちゃんが、2011年ブログ開設当時に「ととのったー!」と言語化し、SNS上を中心にサウナ愛好家に浸透していきました。
―「ととのう」とアートは、どう結びつくのでしょうか?
チームラボはこれまで、アートによって自分と世界が再び一体となる、ということを模索してきました。
本展はサウナで「ととのう」ことによって、感覚が鋭くなり、頭がすっきりとし、美しいものがいっそう美しく感じられることが体験できる、実験的な展覧会です。これは、科学的裏付けに基づいたことを、実験として採り入れています。
「ととのう」とは、超温冷交代浴(サウナ・冷水・休憩を繰り返すこと)によってもたらされる、脳科学的にも非常に特殊な状態です。自律神経の副交感神経が働いて、リラックスした後、高温というストレスで、交感神経が活発になる。続いて冷水浴をすると、副交感神経が優位になってホッとしますが、冷たさで今度は交感神経が働いて、すっきり効果が生まれます。そのあと外気浴で、再び副交感神経により身体と心が緩む。
本展では、来場者がこの「ととのった」状態になって、アートとともに時間を過ごします。
その辺の科学を詳しく知りたい方は、すぐ向かいの蔦屋書店の2Fをぜひのぞいてみてください。関連書籍を集めたフェア ”「チームラボ & TikTok, チームラボリコネクト:アートとサウナ 六本木」を読む” を、蔦屋書店さんが4月30日まで開催しているようです。専門書も充実したラインナップになっていますので、すごく参考になりますよ。
◆日本の自然と伝統文化
― アートとサウナで「つながる」とは、どういうことですか?
本展でのサウナ室は、ドライサウナとロウリュサウナ(フィンランド式サウナ)の7室すべて、METOS(メトス)社監修の本格的なものを用いています。
日本でサウナが普及したのも、フィンランド式のサウナが入ってのことですが、サウナは実は、唐突な、新しいものではないんです。
昔から日本には、「蒸し風呂(蒸気浴)」の習慣があり、長年、茶道とサウナの文化が受け継がれてきました。
「淋汗の茶の湯(りんかんのちゃのゆ)」といい、蒸し風呂で汗をかいた後に、客にお茶を飲んでもらう、茶を点てる、ということが室町時代以降に行われてきました。
チームラボでは、九州の御船山楽園(みふねやまらくえん)にサウナができてから、2年前から「チームラボ 廃墟と遺跡:淋汗茶の湯」など、アートとサウナの新しい体験に取り組んできました。
日本にはまた、自然の中で温泉に浸かるなど、「自分たちは自然の一部である」と感じられるものが文化の中に生きています。
本展のサウナも、そうした身体とまわりの自然との一体感、自分と宇宙との本来の「つながり」を取り戻すものなのです。
◆”ラグジュアリー・マインド” で見るアート
― 本展は普通の展覧会とは違い、服を脱いで、作品を見ることになりますね。
TikTok チームラボリコネクトは、高級な場所でアートを見るのではなく、あなたが最高級な状態になってアートを体験する、チームラボによるアートとサウナの新しい展覧会です。
「ととのう」はひらがなで書き、身体と精神が「整う」にはじまり、複合的な意味を内包しています。「サウナトランス」という表現も使われています。
チームラボでは、これを「最高級な状態」と呼んでいます。
サウナによって身体と精神が「ととのう」ことで、鑑賞者自身を、最高級な状態にしたかったのです。。
一般的に、アートを見るとき、その作品の価値はそれが飾られている、威厳のある建物で決められている部分はないでしょうか?
例えば、ルーヴル美術館やロンドン・ナショナル・ギャラリーといった美術館は、建物が荘厳です。そういうところでアートを鑑賞すると、鑑賞者の気分も高まります。
しかし、本展はそれとは全く異なります。
箱から入るのではなく、まず ”鑑賞者自身” を変化させてしまいます。
サウナを通して、見る人自身を「最高級な状態」にするのです。
鑑賞者がいわば「最高級」な状態となって、アート作品を鑑賞することになります。
◆アートでコロナに立ち向かえるか
― 本展における「リコネクト」するとは、私たちは今、「コネクト」していない状態であると捉えていらっしゃるのでしょうか?
コロナが拡がった結果、私たちには恐怖心が生まれ、人やモノとの間に距離をとるようになりました。
2011年の東日本大震災の時には、私たちは協力しあい、人と人との間に絆が結ばれました。しかし、新型コロナでは、人々は分断され、バラバラになってしまったのではないでしょうか?
外とのつながりといえば、もっぱらバーチャルに情報を得るようになり、人はそれぞれ自らの殻に閉じこもるようになりました。
けれども、例えば、新型コロナで沸き起こった「恐ろしい」という感情は、ロジックで説明しようとしても、なかなか解決することはできません。
そんな時代に、人類ができることは何だろうか? そう問う時、それを解決できるのがアートではないか、と思うのです。
アートは、言葉では表現できない世界も表現できます。
さらに、固定化された作品ではなく、鑑賞者が一体化できるような作品によって、私たちは身体的に世界と時間に「再びつながる」ことができるのではないか?
サウナを体感し、アートと一体になることによって、人々は再び世界と一体となり、お互いに協力して乗り越えていくことができるかもしれない。
人類は再びつながる、「リコネクト」できるのではないでしょうか?
【お話/工藤 岳】
チームラボ コミュニケーションディレクター
【チームラボ】
アートコレクティブ。2001年から活動を開始。集団的創造によって、アート、サイエンス、テクノロジー、そして自然界の交差点を模索している国際的な学際的集団。アーティスト、プログラマ、エンジニア、CGアニメーター、数学者、建築家など、様々な分野のスペシャリストから構成されている。(聞き手/あみゅーぜん編集部 Yumi)
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