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大正ロマン×百段階段
~文豪が誘うノスタルジックの世界~
2023年3月25日(土)~6月11日(日)
ホテル雅叙園東京 東京都指定有形文化財「百段階段」
近代の都市文化、大衆文化が花開いた大正~昭和初期の時代。
「大正ロマン×百段階段~文豪が誘うノスタルジックの世界~」では、その時代の文豪たちによる物語の世界が、昭和初期の文化財空間に展開します。
本展について、実際の様子と楽しみ方をレポートします。
大正ロマン×百段階段
~文豪が誘うノスタルジックの世界~
展覧会レビューと実際の様子
レトロで、ハイカラ。幻想的で、豪華絢爛。
「大正ロマン×百段階段~文豪が誘うノスタルジックの世界~」は、歴史的な木造建築空間を舞台として、6つの物語の世界が6人のイラスト作品を軸に、アートや工芸品、衣装、音楽(ヨダタケシによるオリジナル楽曲)とともに、二次元、三次元で重層的に創り出されています。
会場となる東京都指定有形文化財「百段階段」は、1935(昭和10)年に旧目黒雅叙園3号館として建てられ、ホテル内に現存する唯一の木造建築です。
著名な画家たちにより装飾が施された7部屋を、99段の長い階段廊下が繋いでいます。
本展は、『乙女の本棚』シリーズ(立東舎)からセレクトした、明治から昭和初期の物語6作品を軸に、ノスタルジックでモダンな和のアート空間が生み出され、まるで映画のセットの中に入って作品を鑑賞するような、唯一無二の展覧会となっています。
『乙女の本棚』は文豪の不朽の名作に、現代の人気イラストレーター・漫画家が描き下ろしイラストで挿絵を添えた、小説としても画集としても楽しめるシリーズです。
作家や「乙女の本棚」のファンはもとより、美にあふれた和の展示空間、大正・昭和初期のレトロな雰囲気を楽しみたい人、着物でひとときを過ごしてみたい人まで、特別な体験がしたいあなたにおすすめの展覧会です。
(写真:会場風景、文中敬称略)
「大正ロマン×百段階段」6つの物語
1 十畝の間 萩原朔太郎×しきみ『猫町』
荒木十畝(じっぽ)による天井画が特徴的な「十畝の間」には、萩原朔太郎の小説『猫町』(1935年/昭和10年)の世界が、しきみ(イラストレーター)の挿絵パネル(書籍から抜粋)とともに展開します。
立体展示は可愛いダークメルヘン風な音楽とともに、道に迷った私がたどり着く美しい町に入り、後半は一転して、猫の町へと迷い込む。
展示風景(作品 小澤康麿)
2 漁樵の間 中島敦×ねこ助『山月記』
盛鳳嶺(さかり ほうれい)による「漁樵(ぎょしょう)問答」をモチーフにした柱の彫刻が特徴的な「漁樵の間」には、中島敦(あつし)の短編小説『山月記』(1942年)の世界が、ねこ助(イラストレーター)の挿絵パネルとともに展開します。
唐代、詩の才能にとらわれ虎へと身を落とした李徴が、友人の袁傪に自分の数奇な運命を語る。
すべて純金箔、純金泥、純金砂子で仕上げられ、彩色木彫と日本画に囲まれた絢爛豪華な「漁樵の間」が、後半の展示ではなんと、竹林になっています。
3 草丘の間 太宰治×紗久楽さわ『葉桜と魔笛』
礒部草丘(そうきゅう)による欄間(らんま)絵と天井画が特徴的な「草丘の間」には、太宰治の短編小説『葉桜と魔笛』(初出1939年)の世界が、紗久楽さわ(漫画家)の挿絵パネルとともに展開します。
姉である主人公が回想する、死期の近い妹とのかつての生活。
姉妹が暮らしていた城下町の家の中をイメージした室内には、実在するのか妹の自作自演なのか、妹が交わしていた手紙の相手(M.T.)のシルエット。
葉桜の季節に緑を望む、窓からの自然光に煌めくステンドガラス作品(ステンドグラス工房かわもと)が、回想の風景を際立たせます。
4 静水の間 小川未明×げみ『月夜とめがね』
橋本静水(せいすい)の名を冠した「静水の間」には、小川未明の童話的作品『月夜と眼鏡』(1922年)の世界が、げみ(イラストレーター)の挿絵パネルとともに展開。
月のきれいな夜、針仕事をしているおばあさんのもとに現れる、二人の訪問者。
一人目は眼鏡売りの男、二人目は香水工場で働く少女でした。
展示風景(作品 高山しげこ)
5 星光の間 泉鏡花×ホノジロトヲジ『外科室』
画家 板倉星光(せいこう)の名を冠する「星光の間」には、泉鏡花の短編小説『外科室』(1895年/明治28年)の世界が、ホノジロトヲジ(イラストレーター)の挿絵パネルとともに展開。
物語前半、手術室のシーン。心に一つの秘密(植物園で出会った日から高峰に恋をしているということ)を持つ夫人は麻酔薬によってうわごとを言ってしまうことを恐れ、麻酔無しでの手術を望みます。
床の間には、夫人が拒む麻酔薬の注射器をイメージした、なんだか怪しいインスタレーションが……。
和洋折衷なデザイン、儀式のような「手術」を、雅楽風×混声合唱ゴシックに仕立てたBGMとともに。
6 清方の間 谷崎潤一郎×マツオヒロミ『秘密』
美人画の大家 鏑木清方(かぶらき きよたか)の絵画(※撮影不可)が特徴的な「清方の間」には、谷崎潤一郎の短編小説『秘密』(1911年/明治44年)の世界が、マツオヒロミ(イラストレーター)の挿絵パネルとともに展開します。
「普通」に飽き足らぬ主人公の男が女装して町に繰り出し、かつて関係を持った「T女」との逢瀬に目隠しをしたままで赴く。
前半は化粧をし、女装して浅草に出かける準備をする「私」。
後半は、「T女」と逢い引きをする秘密の部屋をイメージしたインスタレーションがハイライト。
マツオヒロミ『秘密』(部分)
頂上の間 大正ロマン フォトスポット
99段を上がりきったところにある「頂上の間」では、本展でセレクトされた6作品を含む、『乙女の本棚』シリーズ(立東舎)の全作品などを紹介。
また、大正ロマンの雰囲気たっぷりのプロップスを背景に、写真撮影が可能です。
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